大判例

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東京高等裁判所 昭和61年(行ケ)226号 判決

一 請求の原因一ないし四の事実は当事者間に争いがない。

二 本件審決の認定判断の誤り第1点について

1 スロツトマシンのドラムの停止方法には、自動停止方式と手動停止方式の二種類があり、いずれの方式も本願出願当時知られていたこと(手動停止方式が公知の程度にとどまるか、周知であつたかは当事者間に争いがあるが、少なくとも公知であつたこと)、並びに、自動停止方式及び手動停止方式の構成の概略についての請求の原因五1(一)(2)及び(3)記載の事実は、当事者間に争いがない。

2 成立に争いのない丙第四号証によれば、

(一) 引用例は、考案の名称を「回胴遊技機における支払コイン規制装置」とする引用考案の、実用新案出願公告公報であること、

(二) 引用考案の要点は、回胴遊技機(以下「スロツトマシン」という。)において、従来は、外周に符号又は絵が描かれた複数のドラムが回転し、それが停止した時の符号又は絵の特定の組合わせにより、公安委員会が定めた最高一五個までのコインが支払われるのみであつたものを、従来の方式で複数のドラムが停止した時に、符号又は絵のある特定の組合わせができた場合には、それ以後七回まで、一個の特定のドラムについて別の極めて容易に出る符号又は絵が出た場合に最高の一五個のコインが支払われるようにしたスロツトマシンの構成にあり、ドラムの停止方法等スロツトマシンとして必要な機構でも、右構成に直接係りのない部分の構成は要点ではないこと、

(三) そのため、引用例に登載された引用考案の明細書及び図面には、引用考案のドラムの停止の方法について、自動停止方式によるものか、手動停止方式によるものかについては明確な記載がないこと、が認められる(引用例には、引用考案のドラムの停止の方法が自動停止方式を採用しているか、手動停止方式を採用しているかについては明確な記載がないことは当事者間に争いがない。)。

3 承継参加人は、引用考案が自動停止方式を採用しているのか、手動停止方式を採用しているのかは、引用例に記載された技術事項から判断する他なく、引用例(特に第12図)には、手動停止方式の場合必要な、時間制御スイツチを強制的に開動作させる手段が、ロータリーステツプアツプコイルを含む回路を強制的に開路させる手段が全く示されていないから、もしこの引用例記載のスロツトマシンが手動停止方式であるとするならば、適正な機械動作が得られず不合理であるので、引用考案は、手動停止方式ではなく、自動停止方式を採用しているものである旨主張するのでこの点について判断する。

引用考案における電動式ロータリースイツチ及び時間制御スイツチの動作、機能についての請求の原因五1(一)(5)の主張、自動停止方式のスロツトマシンに引用考案の時間制御スイツチを適用して適正かつ円滑な機械動作を得る具体的方法についての同五1(一)(6)の主張及び手動方式のスロツトマシンに引用考案の時間制御スイツチを適用して不都合を生じさせない機構、手段についての同五1(一)(7)の主張の各事実は、いずれも当事者間に争いがない。

右事実によれば、自動停止方式のスロツトマシンに引用考案の時間制御スイツチを適用して適正かつ円滑な機械動作を得るには、各ドラムの自動停止タイミングを決める時間と、前記時間制御スイツチの動作タイミングを決める時間(機械式タイマーで設定される。)とを、各ドラムが自動停止したすぐ後に時間制御スイツチを開動作させて、ロータリースイツチの摺動子を一ステツプ動かすように時間タイミングを設定することにより、うまく対応させればよいのであるから、引用例、特に第12図に記載された時間制御スイツチ、ロータリースイツチの回路には特別の手段を付加することなく適正かつ円滑な機械動作を得られるものである。

これに対し、手動停止方式のスロツトマシンに引用考案の時間制御スイツチを適用して適正かつ円滑な機械動作を得るには、時間制御スイツチの動作タイミングを決める時間を前記請求の原因五1(一)の(3)に記載のドラムを強制的自動的に停止させる時間に対応させておき、遊技者による停止操作に対しては、停止操作完了時点でロータリーステツプアツプコイルを非励磁状態へ移行させるべく、時間制御スイツチを強制的に開動作させる手段か、あるいは、ロータリーステツプアツプコイルを含む回路を強制的に開路させる手段が必要である。したがつて、引用例、特に第12図に記載された時間制御スイツチの回路に、遊技者による停止操作に対応して、停止操作完了時点でロータリーステツプアツプを非励磁状態へ移行させるべく、時間制御スイツチを強制的に開動作させる手段、又はロータリースイツチの回路に、遊技者による停止操作に対応して、停止操作完了時点でロータリーステツプアツプを非励磁状態へ移行させるべく、ロータリーステツプアツプコイルを含む回路を強制的に開路させる手段を付加しなければ適正かつ円滑な機械動作を得られないものである。

しかるに、前記丙第四号証によれば、引用例には右のような手段は示されていないことが認められる。

したがつて、引用例には、引用考案は自動停止方式を採用しているものであることが示唆されていると言うことができるが、引用考案が手動停止方式を採用しているものないしはこれが示唆されているとは認められない。

そうすると、「引用例のスロツトマシンも従来のストツプ装置を具備していることは推測できる。」とした本件審決の認定判断は誤りであり、本件審決は、このように引用考案の構成を誤認したことにより、本願考案は、各ドラムを個々独立に手動停止させるストツプ装置を備えているのに対し、引用例記載のスロツトマシンは自動停止装置を採用しているという、本願考案と引用考案の相違点を看過誤認したものである。

4 被告は、「スロツトマシンのドラムを停止させる具体的技術として、手動停止方式と自動停止方式があることは、本件出願前に、周知であつたから、本願出願当時における当業技術者の認識、理解を基準とすれば、引用例の三つのドラムが停止する旨の記載は、周知の手動停止方式と自動停止方式とを含む上位概念を意味するものであると、きわめて容易に理解することができたものである。また、引用考案は手動停止方式と自動停止方式のいずれかの停止方式を採用していると解されるところ、いずれの方式を採用するかは、当業技術者にとつて設計的事項であるということができるから、当業技術者は、引用例には、スロツトマシンのドラム停止技術として、周知の手動停止方式を具備する場合についても記載されているに等しいと理解することができる。」と主張する。

しかし、引用例には、引用考案は自動停止方式を採用しているものであることが示唆されていると言うことができるが、引用考案が手動停止方式を採用しているものとは認められないことは前記のとおりであり、のみならず、かりに、本願出願前、スロツトマシンのドラムを停止させる具体的技術として、手動停止方式と自動停止方式があることが周知であつたとしても、そのことから、引用例の「三つのドラムが停止する」旨の記載が、周知の手動停止方式と自動停止方式とを含む上位概念を意味するものであると、きわめて容易に理解することができるものでもないし、当業技術者が、引用例には、スロツトマシンのドラム停止技術として、周知の手動停止方式を具備する場合についても記載されているに等しいと理解することができるものでもない。

5 以上のとおり、本件審決は、引用例に記載された技術を誤認し、本願発明と引用考案との相違点を看過誤認し、その相違点についての判断をしないままに、本願発明は、引用考案に基づいて当業技術者がきわめて容易に考案をすることができたと判断した違法なものである。

三 よつて、その主張の点に違法があるとして本件審決の取消を求める原告の本訴請求は、その余の主張について判断するまでもなく、理由があるから、これを認容することとする。

〔編注〕本願考案の要旨は左のとおりである。

外周に数種類の図柄を表示した複数個のリールと、手動により各リールを個々独立に停止させるストツプ装置と、全リール停止時の有効図柄の組合せに対応する検出信号を受信してメダルの払戻しの有無、払戻し数を判断する第一ペイアウト判断回路と、各リール停止時の有効図柄に対応する検出信号を受信してメダルの払戻しの有無を判断する第二ペイアウト判断回路と、全リール停止時の有効図柄の組合せに対応する検出信号が特定の場合にのみ前記第二ペイアウト判断回路を動作可能の状態におく特別ゲーム判断回路とを有するスロツトマシン。

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